金沢と高岡 ― 加賀百万石が育んだ“美と技” 文化回廊 ―
金沢と高岡。
今は石川県と富山県に分かれていますが、江戸時代にはともに加賀藩・前田家の領地でした。
藩主の美意識のもと、武士たちが文化を愛し、町人が技を磨いたこの地域には、今も“しつらえの美”と"ものづくりの精神 ”の心が息づいています。
金沢では、歴史が育んだ文化や芸がまちの日常に溶け込み、高岡では、手仕事の技が暮らしを支える力として受け継がれてきました。
同じルーツをもつ二つのまちを行き来すれば、まるで一つの文化圏を旅しているような感覚に包まれます。
金沢 ― “ほんもの”が磨き上げた美のまち
金沢では、「見て」「触れて」「味わう」“本物の仕事”にふれる体験が待っています。
金沢の美は、ただ外見を飾るためにつくられたものではありません。
金沢城の五十間長屋や鼠多門に見られるように、伝統的工法を守りながら技を極めてきた職人の精神が、今も町の基盤となっています。
茶屋街では、芸を磨き続ける芸妓の存在が、まちにしなやかな品格を与え続けています。
そして、これらの文化を支えたのが「加賀百万石」と称される豊かな財力です。
莫大な石高を背景に、前田家は工芸、学問、芸能へ惜しみなく投資し、“良いものを丁寧につくる文化”が金沢の隅々にまで根づきました。
九谷焼や加賀友禅、金箔といった工芸も、富に支えられ、確かな技を追求した結果、その姿が美に昇華したもの。
金箔生産量は日本一を誇り、日光東照宮の陽明門や金閣寺の修復に使われるほど品質が高く評価されています。
現代では、アートギャラリーや工房が集まり、伝統と創造が出会う工芸アートの街として国内外から注目を集めています。
高岡 ― 日本を支える“技の都”
一方、高岡は加賀2代藩主・前田利長が開いた“ものづくりの町”。
銅器、漆器、鋳物などの伝統技術が今も息づき、工房では職人の手仕事を間近に見ることができます。
400年続く鋳物技術は、今も日本各地で生かされています。
東京駅のドーム飾りや国会議事堂の装飾金物にも高岡の職人技が使われており、全国の寺院に響く梵鐘の約7割が高岡製ともいわれています。
しかし高岡の価値は“技”だけではありません。
北前船が往来した伏木港、そして周囲に広がる豊かな穀倉地帯によって、高岡は江戸時代、加賀藩の経済と物流の要となっていました。
藩の財政を支え、豊かな物資と文化を運んだこの地があったからこそ、加賀百万石の繁栄は維持されていたのです。
近年では、錫製品で世界的に知られるブランド 「能作」 が誕生し、伝統技術をモダンデザインへと昇華。
歴史に根ざした“技”と、港町として培った“開かれた気風”が融合し、高岡は“世界のクラフト都市”として再び注目を集めています。
加賀藩前田家ゆかりをめぐる ― 二つの城下町に通じる歴史の道
金沢と高岡をつなぐ大きな共通点のひとつが、「加賀藩前田家ゆかりの史跡が今も色濃く残る」ということです。
前田家が治めた広大な領地の中でも、この二つの城下町には藩主の思想や文化政策を“体感できる場所”が数多く残っています。
まずは 城と庭園。
金沢城公園・兼六園は、藩主の暮らしと美意識を象徴する加賀藩の中枢であり、江戸時代の城郭建築や庭園文化が現在まで継承されています。
一方、高岡古城公園は、2代藩主・前田利長が築いた高岡城の跡で、武家のまちづくりの思想を今に伝える貴重な城跡です。
そして、両市にまたがってその精神性を示すのが 加賀藩ゆかりの寺院群。
利長の菩提を弔うために3代藩主・前田利常が建立した国宝・瑞龍寺は、高岡を代表する前田家ゆかりの名刹です。さらに2022年国宝に指定された 勝興寺(高岡)のいずれも前田家の庇護を受けて発展し、宗教・建築・工芸の粋を集めた壮麗な伽藍が見どころです。
また、城下町を歩けば、武家屋敷や町家が当時の姿を伝え、城下町文化を肌で感じられます。
金沢の長町武家屋敷跡と、高岡の山町筋・金屋町は、ともに加賀藩の時代の生活文化や町割りを今に残すエリアで、まち歩きに最適です。
このように、金沢と高岡は、城・寺院・町並みといった観光スポットを通じて、前田家が築いた文化の“連続性”を体感できる場所です。
一つの藩に育まれた二つのまちを巡ることで、加賀百万石の歴史と文化がより立体的に浮かび上がります。
職人の技が息づく ― 工芸とものづくりの共通文化
高岡と金沢には、もうひとつ大きな共通点があります。それは、「職人のまち・ものづくりのまち」としての文化が今も力強く息づいていることです。加賀藩が工芸を手厚く保護し、優れた職人を育成した歴史が両地域にあり、その流れは現代の暮らしの中にも受け継がれています。
金沢では、加賀友禅や金箔、九谷焼など、雅やかな美を追求した工芸が発展し、高岡では、銅器や漆器、錫製品といった、素材を生かした確かな技が磨かれてきました。
いずれも、伝統を守りながらも現代の感性を取り入れ、進化を続ける職人文化として共通しています。
さらに両地域には、旅の思い出にぴったりの工芸体験施設も豊富です。
金沢の金箔貼り体験や九谷焼の絵付け体験が人気で、高岡では能作での錫製品づくりや、高岡漆器の沈金・螺鈿体験などが、ものづくりの奥深さに触れる機会を提供しています。
また、工芸フェアやクラフトイベントが盛んなのも両地域ならではです。
高岡の「工芸都市高岡クラフト展」「市場街 ~ TAKAOKA CRAFT ICHIBAMACHI ~」「クラフトフェア ツギノテ」、金沢の「KOGEI Art Fair KANAZAWA」「Go FOR KOGEI」など、国内外の作家や職人が集うイベントが開かれ、現代工芸の最前線に触れられます。
そして高岡では、職人文化が最も華やかに結実した存在として、ユネスコ無形文化遺産に登録された「高岡御車山祭」の御車山があります。豪華絢爛な漆塗りや金工、彫刻、染織が惜しみなく施され、まさに高岡の伝統技術の集大成といえる存在です。山町筋の町並みとあわせて歩くことで、加賀藩以来のものづくりの精神が今も生き続けていることを実感できます。
こうした工芸文化と祭礼文化の深いつながりは、歴史ある町並みを巡る体験をより豊かにし、高岡と金沢に共通する“職人の力が息づくまち”という魅力を鮮やかに示しています。
生きた文化遺産 ― 伝統的建造物群保存地区
前田家ゆかりの史跡が加賀藩の歴史を物語る一方、その文化が“現在の暮らしの風景”として残るのも、金沢と高岡の魅力です。
高岡の山町筋は、土蔵造りの重厚な町家が並び、商都として栄えた面影を伝えています。
一方、金沢のひがし茶屋街は、格子の優美な茶屋建築が連なり、今も芸妓文化が受け継がれる華やぎの空間です。
いずれも、地元の人々が長年にわたり文化や景観を守り伝えてきた”生きた文化遺産”。
歩くだけで日本の美意識や暮らしの歴史を感じられ、二つのまちの魅力をより深く味わうことができます。
<伝統的建造物群保存地区>
東山ひがし伝統的建造物群保存地区(金沢)
山町筋伝統的建造物群保存地区(高岡)
金屋町伝統的建造物群保存地区(高岡)
吉久伝統的建造物群保存地区(高岡)
“美と技”をつなぐ、文化のはしご旅
金沢と高岡は北陸新幹線でわずか15分。
一日あれば、両方をめぐることができます。
モデルコース例:
午前:金沢で金箔貼り体験 → 兼六園・ひがし茶屋街散策
午後:高岡へ移動 → 能作工房見学 → 山町筋さんぽ
夜:地元の旬の味覚を堪能
県境を越える小さな旅が、過去と今、そして“美と技”をつなぐ大きな感動を与えてくれるでしょう。
結び ― 美と技が出会う北陸へ
金沢と高岡。
この二つのまちは、時代を超えて加賀藩文化という一本の糸で結ばれています。
金沢の金箔が世界を彩り、高岡の鋳物が日本を支える。
美しくつくり、美しく生きる——その精神が、この北陸の地に今も息づいています。
“見えないところで日本を美しくしてきたまち”を訪ねる旅へ。
あなたもぜひ、金沢と高岡で“加賀のこころ”を感じてみませんか。
紹介したスポットをマップで見る
- 金沢城公園・玉泉院丸庭園
- 兼六園
- ひがし茶屋街
- 長町武家屋敷跡界隈
Google Mapの読み込みが1日の上限を超えた場合、正しく表示されない場合がございますので、ご了承ください。