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【ファッションエディター古泉洋子の美食体験記】人気の若手シェフがコラボ「KANAZAWAディナーフェス」に潜入!

金沢の食といえば鮨やおでんなど和食のイメージが強いですが、いま注目は若手シェフによる モダンなフレンチやイタリアンです。

そんな予約必須の人気レストラン3店を巡って、 前菜、メイン、デザートを順に楽しむ企画が「KANAZAWAディナーフェス」。

9月26日、27日の2夜にわたって行われた画期的な食イベントの模様を、金沢に縁のあるファッションエディター、古泉洋子(こいずみひろこ)がレポートします。

美食のまち、金沢の欲張りイベント

金沢は海も山も近い立地ゆえ海鮮はもちろん、加賀野菜やフルーツ、ジビエなど豊かな食材に恵まれています。また藩政時代から茶道が盛んで一般にも普及しており、市民がもてなしの心を備えていることも特徴。それも関係しているのか、規模の大小を問わず人が集まるイベントが数多く開催されています。なかでも食にまつわる催しは地元の日本酒とのペアリングから、石川県の作家による器とのコラボレーションまで趣向を凝らしたものばかり。今回の「KANAZAWAディナーフェス」は、金沢グルメの新しい楽しみ方を提案するイベントとのこと。旅でいちばん悩むのは食スケジュールというほどおいしいものに目がないので、魅惑的な3店の味と雰囲気を一夜にして堪能できる欲張り企画と聞いて期待に胸が高鳴ります。

「ジブンチ」前菜:素材の力強さを味わうイタリアン

イベントはメニューと巡る店の順番、価格が異なる2つのコースがあり、私はしっかりと料理を堪能できるコースに参加。まずスタートはイタリア料理店「ジブンチ」から。ドライフラワーや野趣あふれる装飾がなされたトスカーナ風の店内で、参加者は長テーブルに座るイタリアンスタイル。オーナーシェフの山本啓介さんは狩猟免許を持つ肉焼き名人として知られ、野菜は自家栽培も多く取り入れているそう。こちらのお店では前菜4品が提供されます。「マガジーノ」のモッツァレラブッラータにかぼちゃの一種、コリンキーの千切りと柿のマリネを添えて。いきなりの驚きは金沢でチーズづくりも行われていること! とろりとミルキーな味わいにシャキシャキとしたコリンキーという食感のバランスが楽しい。続いては加賀れんこんのコロッケに卵がたっぷりとのった金沢の甘海老の一皿。海と山、二つの幸が口のなかでまろやかに溶け合います。このほかアオリイカとシェフの実家農園で収穫したつるむらさき、オクラ、ドライトマトのソテーのからすみ掛け、猪のオーブン焼きは加賀野菜の一つ、打木赤皮甘栗かぼちゃと栗で秋の気分を演出。どの料理もフレッシュな素材の力強さを生かしています。ワイン以外に地元のシードルや日本酒もペアリングされていて、料理に広がりを持たせていました。

Column

CHEF 山本啓介氏

元「トラットリア チカーラ」のシェフ。チカーラではシンプルで力強いトスカーナ料理をベースに、メインとしてTボーンなどの炭火焼を提供。2020年にジブンチをオープン。地元食材や自家栽培の食材、ジビエを使ったその料理は多くのファンを魅了している。

「オステリア デル カンパーニュ」メイン:金沢町家を生かした空間で上品な味わいを

今回の3軒は繁華街、片町界隈に位置する、いわばご近所。移動はご一緒した皆さんと徒歩で。ほんの3分ほどですが、夜風にあたって歩いたおかげで程よい気分転換に。メイン4品をいただく2軒目は「オステリア デル カンパーニュ」。東京の名店「アッピア アルタ」で研鑽を積んだシェフの蓮見慎吾さんとソムリエの堀友磨さんが、一度リセットした場の空気を盛り上げ上げてくれます。築130年の金沢町家をリノベーションした重厚感のある大人なムードの老舗イタリアンで、海鮮と手打ちパスタ、ワインの充実ぶりが人気とのこと。まず金沢らしいゴールドの器に盛り付けられた、紅ズワイガニをたっぷりと使ったカッペリーニをホロホロ鳥のジュレと。もう一品のパスタは地元のブランド椎茸、能登115とポルチーニのクリームを封じ込めたラビオリ。木の子の香りとセージバターとの相性がぴったりです。そして高級魚、のどぐろのローストは、金沢美人れんこんのはしりならではのシャキシャキとした食感とのコントラストで。最後には金沢の次なる注目食材、能登牛(うし)のローストをトリュフソースと。箸休めには五郎島金時のサラダを。控えめにサシの入った赤身の内モモ肉は、コクがありつつさっぱりいただけました。地元のワイナリー「ヴァン・ド・ラ・ボッチ」のストーリーも印象的。子どもに障がいがあり、そのことから誰もが働けるワイナリーを目指しており、エチケットもわかりやすい数字1文字でネーミングされているそうです。

Column

SOMMELIER 堀 友磨氏

東京「IL BOCCALONE」「Appia arta」で修行後、カンパーニュレストラングループに参加。トップサービスマンしか接客を許されないVIPへのサービスや、イタリア現地ワイナリーでの研修などを経て2012年に当時最速最年少でソムリエの資格を取得。ワインに限らず日本酒の提案や県内外でのペアリングイベントを多数こなす。

「フィルドール」デザート:食材のマリアージュを楽しむ大人のデザート

最後は海外での修業経験もある、金沢出身の田川真澄シェフが営むフレンチ「フィルドール」へ。カウンターのみの小さなレストランなので、2チームに分かれ、私は道路を挟んで向かい側に昨年オープンしたカフェ「フィルフィル カカオファクトリー カフェ&バー」に伺いました。実はここ数年、金沢の魅力を東京のメディアで紹介する仕事もしているため、田川シェフはファッション誌『ELLE JAPON』や『AMARC Magazine』でも取材済み。店名が仏語で“金の糸”を意味するように工芸作家、生産者をはじめ、ゲスト同士や関わる人をさり気なくつないでくれる、繊細でスマートなコミュニケーションが料理にも映し出されています。こちらではコースの締めくくりとしてデザート2品をいただくことに。グランデザートはいちじくとカカオのババ。能登の宝達志水で40年も一筋に取り組まれている「松浦ファーム」のいちじくを4種も使っています。無類のいちじく好きとしては、至福この上ない時間! ミニャルディーズにはクラフトジンの「アレンビック」のジンかぼすを使ったボンボンショコラと、日本酒「福光屋」の酒粕パウダーをまとったクルミのロシェを。どちらのお酒も金沢でつくられています。こちらのカフェではファクトリーも併設し、そのチョコレートは金沢駅あんと内でも発売されていますが、甘さ控えめなお酒にも合う味わいです。

Column

CHEF 田川真澄氏

石川県出身。本場のフランス料理を感じるため渡仏し、レストランで修業。その後、カナダ、ニューヨークなどでも研鑽を重ね、2017年6月より、故郷金沢で生産者と工芸との繋がりを目指したレストラン「フィルドール」を営む。

金沢のサンセバスチャン化計画⁈

3時間以上にわたり体感させていただいた、おいしさと驚きに満ちたイベントには、インフルエンサーやグルメな方々が県外からも参加されていました。この感じ、何か記憶にあります……そう、数年前に訪れたスペイン、サンセバスチャンのバルホッピング! 世界から美食を求めて集った、初めましての人々との交流が蘇ります。すべてのメニューに地元の食材が使われており、3店が綿密に連携し地元を盛り上げようという姿勢にも、ここに暮らす人たちの金沢愛をあらためて感じました。金沢のキャッチフレーズは“五感にごちそう”ですが、若き世代がさらにそれを自由かつ深く推し進めています。次の金沢旅ではぜひ新しい食体験を!